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【検証】「月5万円未満」中小・個人事業者のための少額リスティング広告運用法

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Google Adwordsが米国で初登場して早くも16年経つそうです。リリース後日本に上陸してひろく一般にも開放された際、当時はアフィリエイト広告が全盛だったこともあり「こんなので広告効果が出るの……?」という懐疑的な声をしばしば耳にしていたのを記憶しています。

しかし今やGoogle Adwordsをはじめ「リスティング広告」はサービスとして定着しただけでなく、Web広告の代表的な存在にまでなりました。何よりこのリスティング広告は初期投資費用が少なく始められるので中小・個人規模の事業者でも導入できるだけでなく、大企業の広告ニーズにもマッチできるなど幅広いレンジに対応できるのが魅力と言えそうです。

ところが一方で、気がかりなデータもあります。総務省が発表している「平成26年通信利用動向調査(アンケート、n=2,136社)」によると、一般企業のWeb広告の導入率(青)/リスティング広告導入率(赤)[売上別]が下図です。

概してWeb広告導入率もリスティング広告導入率もあまり高くない状況ですが、気になるのは年間売上が低くなるほどWeb広告の導入率が下がり(5億円未満は19.3%)、年間売上が高くなると導入率が上がり(1,000億以上は43.9%)、その差が2倍以上離れている傾向です。

本来なら中小・個人規模でも導入できる「参入障壁の低い」広告手法であるはずのリスティング広告ですが、中小・個人事業者ではなかなかリスティング広告運用に割くリソースが確保できないというのが実情かもしれません。

でも広告露出が大企業ほど高くなるのであれば、それは広告費用が高額なマス広告(テレビ・新聞・雑誌など)の運用状況と変わらなくなります。これは「大手に食われる」という機会損失の点からも、非常にもったいない状況です。

そこで今回は、中小・個人事業者を対象に「ひと月の運用金額5万円以内で結果を出すリスティング運用法」を検証してみることにしました。 (検証期間:2016/01/26~2016/02/28)

少額リスティング運用のターゲット設定

まずは少額のリスティング運用で狙う「ターゲット」をイメージします。ちなみに今回の商材は弊社のクライアントであるとある「歯科医院」のリスティング広告運用を担当させていただきました。

ファネル図

まずターゲットとして意識したのは広告対象となる商材に対して「無関心な層」が大半であるということです。この層を狙いに行く広告手法もあるのですが、今回のような少額での運用の場合、「需要を掘り起こしにいく」ようなアプローチは相応の広告コストがかかるため向いていません。

一方で、リスティング広告は「ユーザーが検索窓に入力した検索ワードに準じて」表示されるテキスト広告です。検索ワードを入力している段階で、その検索ユーザーは自らの需要を言語化しているわけなので、「顕在層」もしくは「顕在層にかなり近い潜在層」と見て間違いありません。

さらに需要が顕在化しているため、「あと一押し」があれば来院にいたる可能性が高い層ともいえます。その分総数は少ないですが、少額でのリスティング運用の際には、最優先で取り組みたい層と言えるのではないでしょうか。

ターゲットにマッチしたキーワード戦略とクリエイティブ(広告文)

こうしたターゲット設定がまず影響を与えるのは「キーワード戦略」と「クリエイティブ(広告タイトルと広告文)」です。

具体的に実例で説明します。リスティング広告から「小児歯科」での集患を狙った時、ターゲットである顕在層には「子どもの歯の健康状態が気になっている母親」ではなく「子どもの歯になんらかのトラブルが生じた母親」をイメージしました。

その時、最適なキーワード戦略は「歯にトラブルが出た子どもを抱えた母親が検索するワード」を考えることになります。つまり「小児歯科」や「地名 小児歯科」、「子ども 虫歯」、「子ども 歯科医院」などが想定されます。一方で「子ども 歯の磨きかた」や「子ども 虫歯予防」などのキーワードは潜在層は反応してくれそうですが、「顕在層」を狙うワードとしてはふさわしくありません。

クリエイティブのほうでも「子どもの歯になんらかのトラブルが生じた母親」をうまくキャッチする文言を考えることになりますが、検証期間中もっとも広告パフォーマンスがよかったのは下の広告文でした。

広告に携わったことのある方の目線からみれば、店舗説明に終始しているだけなので、ハッキリ言って面白味のないクリエイティブではないでしょうか。しかし広告にはアートと異なり表現に「正解」があります(ひとつとは限りません)。もちろんこの「正解」というのは「ターゲットにしっかりと届き、求められている成果を出す」ことです。

結果論ではありますが、今回もっとも「正解」に近づけたのは上の広告文だったということになります。

一方、逆のアプローチで同じキーワードで「キャッチコピー」を意識したようなクリエイティブを掲載してみた結果が下記です。

広告表示が最適化される課程で掲載率自体が下がってしまう結果となりました(均等に配信後、最適化)。このほかいくつか「キャッチコピー」を意識したクリエイティブを掲載してみましたが、総じて広告パフォーマンスは芳しくありませんでした。

「子どもの歯になんらかのトラブルが生じた母親」たちが欲しいのは、子どもの歯のケアに関する「知識」などではなく、あくまで「子どもの歯のトラブルを解決してくれる歯科医院の情報」という、いわば「当たり前」の事実をもう一度確認するような結果となりました。

リスティング広告の「適切な」掲載順位

少額でのリスティング広告運用の場合、「どの局面で勝たなくてはならないか?」の選択と同じくらい「どの局面なら勝てなくてもいいか?」を選択する重要度が増すように思います。

例えば「掲載順位」にしても、例えば「歯科」のようなビッグキーワードで検索した時の競合状況を確認すると、

図3

・「インプラントを前面に押し出した歯科医院」 ・「歯科予約サービス」 ・「歯科求人サービス」 ・「東京・名古屋で展開する歯科医院」 でした。

この時クリック単価を上げて1位掲載を目指す必要性はほぼなさそうです。というのも、これだけ出稿されている広告の訴求ポイントがバラけていると「歯科」と検索したユーザーは、自身のニーズにマッチしたクリエイティブを探すか、追加のキーワードを入れ直すはずです(一般歯科のニーズを抱えているユーザーが「インプラント」を前面に押し出した広告文をクリックする可能性は低いはず、という意味です)。

そのためこの場合は「ファーストビューに入る3~4位に入っていればOK!」くらいでいいのではないでしょうか。またもしこのような状況ですでに1位に掲載されているのであれば、慎重にクリック単価を落としていって、広告費用を節約することもできます。

そもそもリスティング広告においては「1位掲載」を狙うこと自体も考えものです。例えば競合サイトと扱っている商材に変わりがなく、上位に表示されているサイトから検索ユーザーが比較検討していくようなケースなら、より上に掲載される重要度は増します。

しかし今回の歯科医院のケースではそうはなりませんでした。試しに期間全体の「歯科」広告グループと、1位掲載を意図的に狙った3日間のパフォーマンスを比較してみました。

クリック率 クリック単価 CV率 獲得単価
全期間 0.51% ¥132 8.33% ¥1,585
1位掲載期間 0.85% ¥266 4.75% ¥5,585

ちょっと極端な結果になってしまいましたが、1位に掲載されることで「クリック単価は2倍高騰したのに、予約獲得率は半分に落ち、獲得コストも3.5倍近く高騰」という散々な結果となってしまいました。そもそも一般歯科で1人集患するのに広告費だけで5,000円もかけていたのでは、広告を打てば打つほど赤字が膨らむ可能性すらありそうです。

勝っても勝たなくてもいいところで全力で勝つことはスポーツの世界なら美徳になりそうですが、広告パフォーマンスとしてはむしろマイナスとなってしまいました。

短期的なリスティング運用をどう評価するか?

最後に、リスティング広告のパフォーマンスはどのように評価するのが適切なのか、について考察します。

もちろん中・長期的の目標は「可能な限り広告コストを抑えて、最大限の成果を生むこと」ですが、これを運用開始1ヶ月目から達成できるのはおそらくレアなケースでしょう。ましてそもそも何をもって「最大限」なのかさえ、運用し始めたタイミングではなかなかイメージしづらいものです。

そこで広告パフォーマンスの基準を考えるときに「Googleキーワードプランナー(yahoo!の場合はキーワードアドバイスツール)」はいい指標になってくれそうです。

例えば、「歯科(部分一致)」のキーワードで実際の入札単価だった「¥250」を入れ、プランナーで1か月のパフォーマンスを試算し、実際の運用成績と比較したものが下表です(出稿地域も「京都」に合わせています)。

Imp Click Cost円 CTR CPC円 Rank CV CPA円
プランナー 9,900-1.21万 132.9 11,437 1.2% 86 2.21 6.92-8.46 1,340-1,640
結果 24,811 127 16,687 0.51% 131 4.5 10 1,669

個人的に「どこまでいっても試算ツールでは?」と思っていましたが、運用結果と比較してみると、なんとも「いいところ」な感じがするのではないでしょうか?

この比較図によれば、クリック率とCPC(クリック単価)に改善の余地が見られます。具体的には「歯科グループでパフォーマンスの悪いキーワードでの出稿を止め、クリエイティブを見直すこと」が具体的な改善策として考えられます。またCPC(獲得単価)も頑張ってもう少し抑えられそうだという目安がはっきりしました。

こうしてキーワードプランナーが示す試算よりも広告パフォーマンスを良くすることを目安にしていくことが短期的な「評価軸」としてよさそうです。もちろんCPAは広告を出稿する人が考えている「許容範囲」で考えればいいのですが、もしこの「歯科」というキーワードでCPAが「1,000円」を下回ることができるなら、それはもう「最大限に近いパフォーマンス」と評価してもいいのではないでしょうか。

またこのCPAと利益が見合うのなら、そのままのアカウント構成で「Yahoo!リスティング」にも出稿すれば同程度のパフォーマンスが期待できることになります。単純に(理論上は)広告からの集客数も倍(≒利益も倍)になると見積もることができますね。

さいごに

リスティング広告に関する書籍や記事はテクニック面を重点的に解説したものが多いので、どこかで全体を俯瞰できるようなものがあればいいなと思い、検証を通して考えをまとめました。

たとえば「コンバージョン率(CVR)を劇的に改善する」と言われても、その広告でCVR上昇の妨げになっているものはケースバイケースと言っても過言ではありません。もちろん最低限のテクニックを学ぶのは不可欠ですが、リスティングもやはり「広告」です。

広告のパフォーマンスは「どこで/誰に/どんな時に/どんな風に/伝えられるのか?」という「外部環境」に大きく左右されます。リスティング広告は「外部環境」をターゲットの周波数にうまく合わせていくことの重要度がひときわ高く感じます。

しかしここで面白いのは「運用金額の大きい/小さい」という要素は、リスティング広告のパフォーマンスを決定づける要因にはならないことです。中小・個人規模の事業者の方も、これを機にリスティング広告運用をご検討になってみればいかがでしょうか。

執筆:伊藤 高啓(広報・編集) 2015年エムハンドに入社。編集~広告運用を担当。Webサイトをはじめコンテンツをどうやって届けるか?が専門です。

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