ディスプレイ広告の業界地図「カオスマップ」とは? 基本の見方、その変遷と今後の予想
「カオスマップ」をご存知でしょうか? オンラインのディスプレイ広告の業界地図を表現したドキュメントで、広告主、代理店、媒体元、ユーザーなど様々なプレイヤーがどのような関係性にあるかが見て取れる解説資料とも言えます。
米国の銀行家LUMApatnersのCEOであるTerry Kawaja氏が2010年に作成した業界地図『LUMAscape』がその発祥です。動画、モバイル、ソーシャルなど様々なチャネルの地図がある中で、特にその関係性が入り混じっていて“カオス”状態になっているディスプレイ広告地図『Display LUMAscape』がその代名詞のようになり、『カオスマップ』と呼ばれるようになりました。
日本では広告業界で活躍する近藤洋司氏が『Display LUMAscape』日本版を作成・発表し、自らその解説も行っていることで知られています。
広告業界の人間であれば必須ツールとも言えるこのカオスマップを用いて、ディスプレイ広告分野の仕組みを知り、今後の動向を探ってみたいと思います。
カオスマップが生まれた2010年、世界はまだシンプルだった
まずは、カオスマップが初めて作成された2010年版から見ていきましょう。というのも、この頃はまだそれほど“カオス”化しておらず、その構造もシンプルゆえ見やすいからです。
全体的には空白部分が目立ち、シンプルな関係性です。一番左の【Agencies(広告代理店)】と右から二番目の【Ad Networks(様々な媒体を扱う広告ネットワーク)】の部分はやや密集しています。
この時代は、インターネットが登場する以前の広告の流れ、すなわち「広告主は広告代理店に依頼して各媒体の広告枠に広告を掲載する」という仕組みをほぼ踏襲していました。つまり、掲載媒体がインターネットに変っただけで、対応は以前とさほど変わりがなかったのです。
その後、様々な広告形態のアドネットワークを経て、「アドエクスチェンジ」すなわち、広告枠をインプレッション(配信数)ベースで入札して取引する広告のしくみに統一。付随する様々なテクノロジーも発展し、定着していったのです。2010年に空白が目立っていた真ん中部分がじょじょに埋まっていき、その関係性も複雑化の一途を辿り、カオスマップは文字どおり、混沌としていくのです。では次にその混沌ぶりを見ていきましょう。
アドテクノロジーの進化が“カオス化”を促進していく2011年以降
出典:http://www.slideshare.net/HiroshiKondo/chaosmap20111024
2011年版カオスマップを見ると、1年でずいぶん変化していることがわかります。マップ中央の空白が埋まり、全体にみっちり感が増しています。中でも特徴的なのは、複数のアドエクスチェンジやネットワークを一元管理する広告配信のプラットフォーム【DSP(Demand-Side Platform)=】が増大している点です。
その後、広告収益の最大化を目的とした媒体側のプラットフォーム【SSP(Supply-Side Platform)】が登場。そして1インプレッションに対してリアルタイムで入札を行う仕組み【RTB(Real-Time Bidding)】が生まれた後は、RTBの最適入札額を決めるためのデータ分析ツール【DMP(Data Management Platform)】なども使われるようになりました。そうした変遷に伴い、アドテクノロジーはどんどん複雑に、高度になり、プレイヤーも増えて現在の形が作られていきました。
出典:https://www.slideshare.net/HiroshiKondo/jp-chaosmap-20152016
2015-2016のカオスマップを見ると、マップ内のDSP、SSP、DMPを含むカテゴリーを通過するラインが本流になっているのが見て取れます。
こうしたアドテク用語や相互関係についての解説は、サイバーエージェントの以下のサイトがとてもわかりやすいので、ご紹介します。
PCからスマホへ。そしてAIの登場。転換期を迎えた今
こうしてカオスマップを年代ごとに見ていくと、アドテクの歴史の変遷がよくわかります。
2015-2016カオスマップの特徴を拾ってみましょう。右の下側にあった【Mobile】がなくなり、代わりに、アフェリエイトやロケーション広告などにカテゴリーが増えています。Mobileがなくなったのは、Mobileこそが主流になり、ファーストになったことを意味し、より細分化が進んでいるからにほかなりません。
また、左端にはこれまでなかったアプリケーションのカテゴリーが新設されています。広告媒体の種類は今後も統廃合を繰り返し、益々混沌とした様相を呈していきそうです。
ここまで、2010年のカオスマップの誕生から最新のものまでを見てきましたが、これらは技術や方法論の進化や変化にとどまらず、広告主とエンドユーザーとの関係性や対峙の仕方の変化だと見ることができます。どんなお客さまにどんなシーンでどんな商品をどんな風に広告するのか・・・そうした具体的なイメージを描くうえで、このカオスマップが非常に役に立つでしょう。
カオスマップを見て今後の展開を予想するのが今回の目的の一つではありましたが、正直なところ、次に何が来るかは見極めがつきません。しかし、確実に言えるのは、ユーザーがメインに使うデバイスはモバイル、特にスマートホンに特化しつつあり、逆にPCは、ある種の職業の人が決まった時間において業務で使うという用途に収斂しつつあるということです。また、アドテクの世界はAI(人工知能)による新たなプラットフォームの出現を必要としているということです。結果として、広告は個人の属性に対応する「パーソナライゼーション」に対応したものとなり、さらにそれを越え、消費者自らがマーケティングコンテンツを作成する時代がやってくることも予見されています。
今回のまとめ
1 カオスマップの中核を成すアドテクが年々進化し、大きな変遷を遂げてきた。
2 広告媒体はスマートホンが主流となり、それによってより広告はよりパーソナライゼーションに対応したものへとシフトが必至。
3 広告主は誰に、どんなシーンで、どんな商品を、どんな風に広告をするのかを戦略的に考え、出稿していかなければならない。
カオスマップとは、いわば広告を出す側(広告主や代理店)と広告枠を売る側(メディアやアドネットワーク)のマッチング精度を高めるためのツールでもあります。どれほど混沌としていても、やはり問われるのは、自分たちがどうあるべきかという本質なのでしょう。