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それはパクリじゃない!正しく理解しておきたいストックフォトやフリー素材について

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残念ながら、ついに利用中止という事態にまで至ってしまった、東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムデザイン。発端からここに至るまでにいろいろな話題が飛び交いました。 そのひとつが、エンブレムデザインの酷似問題→サントリーのキャンペーン景品のトートバッグデザイン盗用問題→疑惑を受けたデザイナーの佐野氏を擁護していた森本千絵さんにも盗作疑惑…などという一連の展開。一般の人のブログなどでも、あれもこれもパクりでは!?と、次から次へと過熱気味の状態が見られました。

盗用かどうかなどの話にはここでは触れませんが、「パクり」という言葉に関連して、ストックフォトやフリー素材についての話をしたいと思います。デザインを発注する方はもちろん、多くのビジネスパーソンの方々も、正しい判断のための基礎知識として、ぜひご一読ください!

デザインは全て0からオリジナルで作られているわけではない

いろいろなコメントなどを見ていて、まずは正しておきたいと思う誤解は、「別の制作物で同じ写真や素材が使われている=パクリ」ではないということです。もちろん、デザインや制作を行う際に、「オリジナリティー」は重要なキーワード。しかし、だからといって、制作物を構成する写真もアイコンも、キャラクターのイラストも、その全てがいつもオリジナルなものだけで作られているわけではありません。

「ストックフォト」と「フリー素材」

実は、デザイン制作のために使用できる素材には、「ストックフォト」や「フリー素材」というものがあって、プロの仕事であっても、多くのデザインでそれらが使われています。ストックフォトについてWikipediaで調べてみると次のように説明されています。

頻繁に使用されるであろうシチュエーションで予め用意された写真素材のこと。もしくは、写真を含むそのほかマルチメディア素材のこと。その中から、予算に応じて広告・出版等の制作会社が目的に合った素材を選び、使用料を支払うことで利用できる。無料の素材については、基本的にストックフォトと呼ばない。

Wikipedia

つまり、ストックフォトとは、有料で購入できる素材のこと。写真だけでなくイラストやCG素材なども含まれており、最近では動画素材や音声なども扱われるようになっています。引用の最後に、「無料の素材については、基本的にストックフォトと呼ばない」とありますが、無料のものは、一般に「フリー素材」と呼ばれています。

ストックフォトやフリー素材が利用される理由

WEBサイトのデザインでも、例えば、写真やイラストはストックフォトサービスで購入したものを使い、ナビゲーションで使っているアイコンはフリー素材をアレンジして使っている、というようなケースは珍しくはありません。もちろん、それはパクりではありませんし、それらの素材を使ったからデザインにオリジナリティーがないということにもなりません。

制作作業を合理的、効率的に進めるために必要

このようにストックフォトやフリー素材が利用される最も大きな理由は、予算や時間の削減です。カメラマンを雇って写真を撮ったり、イラストレータにオリジナルのイラストを描いてもらったりするためには、お金も時間もたくさんかかります。そこまで予算をかけられない場合や、スピーディに仕上げたい場合などに、ストックフォトの中からイメージに合うものを選んで購入するのは、よくある合理的な方法なのです。

また、例えば夏にWEBサイトの制作を行っていて、北海道の雪山の写真を使いたいなどという場合、写真を撮るために冬まで待つことはできませんし、待ったとしてもロケに行ってイメージ通りの写真を撮ろうと思ったら大変です。こんな場合は、すでにある豊富なストックの中から探した方が、目的やイメージに合った素材を見つけやすいという前向きなメリットもあります。

同じ素材が別のデザインに使われることはある

デザインに使われる素材は、ストックフォトの購入やフリー素材の利用の他、身近なところでは素材集という形で書店やアマゾンなどのネットショップでもパッケージ販売されており、個人でも簡単に手に入れることができます。

これらは、プロのデザイナーの仕事だけでなく、ブログやSNSのアイキャッチャー、プレゼン資料や企画書、販促物など、様々なところで使用される可能性があり、「どこかで使われていた素材が他のところでも使われている」というケースはいくらでもあります。これはもちろん、違法な盗作・盗用ではありません。合法的に入手・使用したものですし、今の騒ぎの中で見られるような、「同じものが使われていたら、即パクリ」ということにはなりません。まずは、大前提として、「同じ素材を使ったデザインが、他にも出てくることはありうる」ということを、分かっておく必要があります。

ストックフォトのライセンス形態は大きく2つ

ストックフォトでは、利用に関する規定(ライセンス)が定められています。

「ライツマネージド(RM)」と「ロイヤリティフリー(RF)」

サービス提供会社によって細部が異なる場合もありますが、ライセンスの形態は、一般的には大きく2つの種類に分けられます。

  • ライツマネージド(RM)
  • ロイヤリティフリー(RF)

例えば、国内最大のストックフォトサービス「amanaimages」の、「写真を安全に使うための10の方法」を見ると、「ライツマネージドとロイヤリティフリーの違い」の中で以下のように書かれています(わかりやすくするため一部割愛します)。

ライツマネージドは、ご利用の使用媒体や期間によって価格が決まり、お客様の申請された範囲内で作品をご使用いただく商品です。 ロイヤリティフリーは、原則的に1度ご購入いただくと使用許諾の範囲内で何度でもご使用いただけ、使用都度のライセンス料が不要の商品です。メリットとしては、価格が安価であり、複数媒体で使用する場合などでも媒体ごとに費用が発生しないことが挙げられます。

つまり、あらかじめ申請した特定の利用目的(媒体・期間)だけに限定して使用できるのがライツマネージドで、一度購入すると条件内でなら複数回自由に使用できるライセンスがロイヤリティフリーということになります。売り方の違いということです。

「ロイヤリティフリー」と「著作権フリー」は違う

ここで、混同しやすいのが「ロイヤリティフリー」と「著作権フリー」です。同じくamanaimagesのページから引用すると以下のように説明されています。

ロイヤリティフリーの場合でも、著作権はもちろん、肖像権などの被写体の権利など、写真にまつわるさまざまな権利が存在します。「フリー」なのは「ロイヤリティ」つまり通常であれば使用するたびに発生するライセンス料だけで、特定の被写体を撮影した画像の場合には使用許諾申請が必要な場合もありますし、もちろん、著作権侵害に当たる使用は禁物です。

「フリー」という言葉のせいか、ここは誤解や混同してしまうことが多いところなので、気をつけましょう。

一般的によく使われるライセンスは以上の2つですが、他にも、ストックフォトサービスによっては、素材を独占使用できる販売形態など、他でも同じ素材が使われているというバッティング状態を防げる商品を用意している場合もあります。

フリー素材の使用規約にも注意を!

フリー素材であっても、勝手には使えない

有料であるストックフォトに対して、無料で使えるフリー素材。無料配布されているのだから好き勝手に使ってもいいのかというと、そんなことはありません。配布サイトなどで、利用規約をしっかり確認してから使用するようにしましょう。

利用条件はそれぞれの配布者が決めますが、一般的には、次のようなケースがよく見られます。

  • 制作者のクレジットを記載することを条件として無料使用を認める
  • 制作者の指定したサイトにリンクを貼ることを条件として無料使用を認める
  • 個人使用は無料だが商業目的の利用は有料になるので申請が必要
  • フリー素材をもとに商品化したり、転売したりする行為は禁止

中には、「クレジット記載も、リンク先も不要。商用でもご自由に」などというものもありますが、すべてがそうではありません。フリー素材であっても、規約に反する使い方をしてしまっては違法になりますので、しっかりと調べてから使用するようにしましょう。

なお、ストックフォトなどに関する用語については、「日本写真エージェンシー協会」の用語集が完結でわかりやすいです。

今回のまとめ

デザインの盗作や盗用の判断は難しいものですが、世の中にはこのような素材もあるということを頭に入れて、発注者側も作る側も、誤解やトラブルがないようにしていきたいですね。また最近では、ブログやSNSなどの投稿でもビジュアルが重視されています。デザインの仕事になじみがない方でも、アイキャッチャーに使う画像として、フリー素材やストックフォトを利用する機会は増えているはず。その際には、ライセンスについてよく確認するようにしてください。